京都大学 原田研究室

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5GHz帯RIS反射板を利用した交差点環境における5Gを利用した車両間通信システムの基礎伝送に成功

―電波の回り込みが少ない環境においても通信エリアを拡大し車両間のアクシデント防止へー

国立大学法人 京都大学大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループは、交差点見通し外の環境において電波の回り込みが少ない5GHz帯を用いた車両間通信システムの通信エリアを拡大する方式として、電気的に電波の反射方向を動的に制御させることができるインテリジェント可変電波反射板(RIS: Reconfigurable Intelligent Surface)の利用を検討し、屋外環境において、5GHz帯で動作するRIS用いて5G信号を伝送する基礎伝送実験を実施し、見通し外の伝送特性を4倍近く拡大させることに成功しました。今回の成果により、交差点見通し外環境において、送受信が必要となる中継機等を用意しなくても、車両からの情報を他の車両に簡易にかつ広域に伝えることが可能になり、自動運転や自動運転支援のための交差点環境における安全安心のための協調通信ネットワークの構築に関する研究開発が促進するものと期待されます。


実験で用いた装置((a)RIS, (b)送信機、(c)受信機)

1. 背景

現在、第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスが開始され,人だけでなく超多数の様々な“モノ”に対しても5Gシステムを利用してインターネットに接続されつつあります.なかでも自動運転や自動運転支援の分野において、車両に対する通信システムV2X(Vehicle-to-Everything)が注目されており、5Gシステムの利用が検討されています。このV2Xシステムにおいては、交差点を走行しようとする車両同士が、各車の位置情報,交差点に設置された各種センサ,メータ,モニタの情報を共有することにより,交通事故の削減等交通分野における様々な課題解決に寄与するものです。現在この車両間通信のために、日本においては5.9 GHzの周波数の割り当てが検討されています。この5GHz帯は,UHF帯と比べ電波の直進性が強く,見通し外通信を行うためには、路側に設置された中継機等で中継を行う必要性がありました。しかし、中継を行う場合は、一旦信号を受信し、その後時間・周波数等のリソース割り当てを再度行った後に転送を行う必要性があるため、送信車両がデータを送信してから受信車両での受信が完了するまでの遅延が発生し、車両間の通信の信頼性に影響を与えることが課題でした。そこで遮蔽物の存在する環境において低遅延でかつ通信範囲の拡大を可能にする方式を検討する必要性があります。


2. 研究成果

交差見通し外の環境において電波の回り込みが少ない5GHz帯を用いた車両間V2X(Vehicle-to-everything)通信システムの通信エリアを拡大を低遅延で行う方式として、電気的に反射面を可変することができる電気素子を利用して電波の反射方向を動的に制御させることができるインテリジェント可変電波反射板(RIS: Reconfigurable Intelligent Surface)の利用を検討し、屋外環境において、5GHz帯で動作するRIS用いて5G信号を伝送する基礎伝送実験を実施し、見通し外の伝送特性を4倍近く拡大させることに成功しました。

伝送実験においては主に下記の4点について実施しました。

  1. 5GHz帯で利用可能なRIS(図1(a))を整備し、また、100MHz帯域幅を有する5G信号を生成可能な送信機および受信機を開発し、それぞれ個々に台車に設置しました(図1(b):送信機、図1(c):受信機)。
  2. 交差点環境を模擬した屋外環境において送信機を設置し、見通し外と想定されるエリアを台車で移動しながら見通し外環境における5G信号の伝送特性を取得しました。
  3. 交差点環境を模擬した屋外環境において送信機およびRISを設置し、RISの電源をOFFにした場合の見通し外環境における5G信号の伝送特性を取得しました。
  4. 交差点環境を模擬した屋外環境において送信機およびRISを設置し、RISの電源をONにし、RISの反射角を動的に制御した場合の見通し外環境における5G信号の伝送特性を取得しました。RISの反射角は、RISの法線方向に対して、0度、40度、60度としました。
図2に送信機、RISの設置位置、RISの法線方向、5G信号のパラメータを示します。今回5GHz帯のRISとしてTMYTEK社のXRife Dynamic RISを用いました。RISのサイズは510×510×57 mm、利得は44.6-46.2 dBです。送受信のアンテナは利得15 dBiの八木アンテナアンテナでアンテナ高は1.7mです。図3にRISを設置しないときの伝送特性とRISを設置するが、電源を入れていないときの伝送特性を示します。ここでは5G信号のブロック誤り率(Block Error Rate: BLER)を伝送特性として用います。所要値はBLER=10-1です。RISを設置しない場合、送信機からの信号は50m程度回り込むことがわかります。次にRISを設置し、RISの電子制御を行わない場合、正規反射により伝送距離は3倍の150m近くまで伸びていることがわかります。しかし、途中100m付近で大きな劣化が生じています。


送信機(Tx)、RISの設置位置、RISの法線方向、5G信号のパラメータ

RISを設置しないときの伝送特性(左)、RISを設置し電源を入れていないときの伝送特性(右)

次にRISの電源をいれ、反射の角度を反射板の法線方向に対して、0度、40度、60度と変更させます。40度方向がRISからみて見通し外の道路に沿った方向になります。図4より、RISにより、100m付近に見えた大きな劣化が、緩和されていることが変わります。興味深い点として、RISからみて見通し外の道路に沿った方向への反射させた場合(40度)であると、100m、200m方向両方で特製の改善が見られ、RISを用いない場合に比べ、4倍の伝送距離が実現できていることがわかります。また、RISの反射方向を0度の方向にすると、100m付近で更なる改善がみなれ、RISの反射方向を60度の方向にすると、200m付近で改善がみられます。このように利用シーンに合わせてRISの反射方向を変化させることにより、必要なエリアに必要な品質で5G信号を伝送できる可能性があることがわかります。


RISの反射角を電子的に変化させた場合(a)0度、(b)40度、(c)60度

3. 波及効果、今後の予定

今回の成果により、交差点見通し外環境において、送受信が伴う中継機等を用意しなくても、車両からの情報を他の車両に簡易にかつ広域に伝えることが可能になり、図5に示すネットワークを構築することが可能になり、自動運転や自動運転支援のための交差点環境における安全安心のための協調通信ネットワークの構築に関する研究開発が促進するものと期待されます。この実験の詳細な内容は、電子情報通信学会無線通信システム研究会(RCS)5月において発表されました。
https://ken.ieice.org/ken/paper/20250522zcK5/
また、5/29に東京ビックサイトで開催される無線通信の専門展示会ワイヤレスジャパンにおいて、基調講演(K2-2、11:30−12:30)で紹介される予定です。
https://prd.event-lab.jp/wj2025/seminar/program/detail/4c76fe0877f72e21c5693c7ff1c3d319/WJWTP


4. 研究プロジェクトについて

本研究の一部は国立研究開発法人情報通信研究機構の委託研究 (JPJ010017C07501)の一環として実施されたものです。


今後期待されるV2X用ネットワーク

用語解説

» 1. V2X(Vehicle-to-everything)
車両が他の車両、インフラ、歩行者、ネットワーク等あらゆるものと無線により接続され、情報共有・協調連携を行うことにより、車両に纏わる様々なリスクを低減させるシステムのことです。V2Xは車両同士を接続するV2V(Vehicle-to-vehicle)、車両と他の路側機等のインフラを接続するV2I(Vehicle-to-infrastructure)、車両と歩行者を接続するV2P(Vehicle-to-pedestrian)、車両とネットワークを接続するV2N(Vehicle-to-network)から構成されています。

» 2. RIS(Reconfigurable Intelligent Surface)
電気的に反射面を可変することができる電気素子を利用して構築され、電波の反射方向、特製を動的に制御できることができる反射板です。

» 3. 5G New-Radio(5G-NR)
5Gで採用された無線インターフェースであり、国際標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)で標準化されています。様々なユースケースに応じた柔軟な信号生成を可能とします。


[研究に関するお問い合わせ先]
京都大学 大学院情報学研究科 通信情報システムコース ディジタル通信分野
原田 博司(はらだ ひろし)
TEL:075-753-5317
E-mail:contact [at] dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp

※メールアドレスは [at] を @ に変えてご利用ください


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