京都大学 原田研究室

[ホーム] » [研究成果] » [報道発表]

第6世代移動通信システムの研究開発に資するサブテラヘルツ帯電波伝搬シミュレータを開発

京都大学大学院情報学研究科 原田博司 教授、香田優介 助教、大見則親 研究員らの研究グループは、サブテラヘルツ帯を用いた無線通信の実現に向け、その伝送特性評価を計算機上で簡易に実行するための電波伝搬シミュレータ(KUCG:Kyoto University Channel Generator)を開発しました。サブテラヘルツ帯はおよそ100 GHz付近から300 GHzにわたる周波数であり、第5世代移動通信システム(5G)で使用されているサブ6帯、ミリ波帯に追加して多くの周波数帯域を確保できることから、将来的な周波数帯域の逼迫を抜本的に解決する手段として、その利用が期待されています。本開発シミュレータKUCGは、同研究グループで行われたサブテラヘルツ帯電波伝搬測定試験と統計的に矛盾しない電波伝搬特性のサンプルを、計算機の上に繰り返し数値生成します。これにより、サブテラヘルツ帯での電波伝搬試験や実証試験を現実空間で実際に行わなくても、誰もが計算機上で各種無線システムの伝送特性評価を行うことが可能になりました。本成果により、サブテラヘルツ波を用いた無線伝送方式の研究開発がさらに加速されることが期待できます。なお、今回開発されたシミュレータの評価版は、当研究室下記のページに一般公開いたしました。
https://www.dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp/ja/ku-gen/


図1

背景

2020年3月に商用サービスが開始された第五世代移動通信システム(5G)は、高速大容量、低遅延、多元接続通信に代表される特徴から、スマートフォンをインターネットにつなぐ手段に留まらず、これからの産業や社会生活を支えるインフラストラクチャとして今後更なる高度化が見込まれています。この高度化のためにはさらなる周波数資源が必要であり、現在5G向けに割り当てが行われ、現在商用展開されているsub6帯1・ミリ波帯2のさらなる活用がまず必要になります。しかしながら、その高度化がさらに進む将来、これらのsub6帯・ミリ波帯ですらも逼迫する恐れがあり、さらなる周波数資源の開拓が必要です。そこで、これらの周波数帯よりもさらに高い、およそ100 GHzから300 GHzまでの周波数帯域であるサブテラヘルツ帯の電波の利用が、次世代の無線通信システムである第六世代移動通信システム(6G)の研究開発の中で注目されています(図1)。



図1

サブテラヘルツ波を使用して無線伝送特性の評価を行うためには、実際に無線機を試作し、電波を放射させて伝送試験を行うことが考えられます。しかし、それには試験環境の整備等現状多大なコストがかかり多くの無線通信設計者が行うことができない上、検証範囲にも限界があります。そこで、サブテラヘルツ波が伝搬する際の様々な特性を計算機の上で模擬するシミュレータがあれば、計算機の上で容易かつ包括的に各種無線システムの伝送特性評価を行うことが可能です。しかしながら、このようなサブテラヘルツ帯に対応した電波伝搬シミュレータは、広く入手可能な形では、国内には存在しませんでした。


研究手法・成果

サブテラヘルツ帯における電波伝搬試験で得られた電波特性を構成する各種パラメータの統計モデルを構築し、その統計モデルからサンプリングを行う処理を記述することで、上述の電波伝搬シミュレータを開発しました。詳細には、下記の4点において研究開発を行いました。

  1. サブテラヘルツ帯周波数の1つである105 GHz、および、ミリ波帯周波数の1つである60 GHzで広帯域信号を実際に放射し電波の到来特性を測定するサウンディングシステムを開発した上で、屋内外数環境において、電波伝搬特性測定試験を実施しました(図2)。
  2. これらの測定試験から、その電波の到来特性を特徴づける3つのパラメータ(電波の到来時間、到来角度、電力)に関する統計モデルを構築しました(図3)。
  3. 構築した統計モデルからサンプリングを行うことを基本的なアイデアとして、サブテラヘルツ波の伝搬特性を計算機上で繰り返し数値生成するためのアルゴリズムを設計しました。
  4. 設計した生成アルゴリズムをワンクリックで簡易に実行するためのアプリケーション(KUCG: Kyoto University Channel Generator)を開発しました。



図2

図3

本研究開発の意義は、サブテラヘルツ帯の無線伝送評価を計算機上で実現するための基盤技術の考案という点にあります。一般に、よりよい無線伝送方式を設計するためには、現実に伝送試験を行う前に、まずは様々な無線伝送方式を試し評価するということが求められます。本研究によって開発された電波伝搬シミュレータKUCGは、未だ開拓途上であるサブテラヘルツ帯周波数において無線伝送方式設計をいち早く始動することを支援するという点で、次世代の無線通信技術の開発を後押しする基盤技術として重要な役割を担うと考えられます。


波及効果、今後の予定

本研究開発の成果により、サブテラヘルツ波帯周波数の電波伝搬特性を生成し、この周波数帯を利用した無線伝送評価を、計算機1つで簡易に行えることができるようになりました。本研究開発の波及効果として、サブテラヘルツ波を用いた無線伝送方式の研究開発がより一層加速されることが期待できます。今後は、この研究開発の流れを一層支援できるよう、より広範なシナリオ・周波数に対応する、単一リンクの伝搬特性のみではなく多数のリンクが混在する無線通信システム全体の伝搬特性の生成を行うことができるようにするなど、KUCGの拡充を推進してまいります。


研究プロジェクトについて

本研究の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)「Beyond 5G超大容量無線通信を支えるテラヘルツ帯のチャネルモデル及びアプリケーションの研究開発」(JPJ012368C04201)における委託研究、および、総務省「日米産学連携を通じた5G高度化の国際標準獲得のための無線リンク技術の研究開発」(JPJ00595)における受託研究の一環として実施されたものです。


用語解説

» 1. sub 6帯:
一般的には、総務省より第五世代移動通信システムに向けて、携帯電話事業者、および、その他の事業者による自営目的のために割り当てられた、3.7 GHzおよび4.5 GHz付近の周波数帯域のことを指す。

» 2. ミリ波帯:
学術的には、30 GHz付近から300 GHzまでの周波数帯域全般を指す。総務省より第五世代移動通信システムに向けに割り当てられた28 GHz付近の周波数帯域もミリ波帯と呼ばれることが多く、一般的にはその下限として28 GHzを含む。しかし、上記の定義の中の100 GHzから300 GHzの周波数帯域は「サブテラヘルツ帯」と呼ばれ、これまで国際標準化による仕様策定が行われてきた無線通信システムの使用する帯域(28 GHz帯、および、60 GHz帯など)と区別されることが多い。


研究者のコメント

今後無線通信システムが社会インフラとして浸透していく将来、利用可能な周波数帯域が逼迫する恐れがあり、6Gではさらなる周波数帯域の開拓が必要であるとされています。サブテラヘルツ帯は広い帯域幅を使用可能な上、競合する無線システムも少ないことから、非常に魅力的な帯域です。その反面、サブテラヘルツ波はこれまで使用されてきた周波数帯域にある電波と特性が異なるので、誰かがその特性を調べ、モデル化・シミュレータ開発を行わなければ、その後の無線通信システム設計を正しく行えません。本開発シミュレータKUCGにより、より多くの無線通信設計者がサブテラヘルツ波を用いる無線通信設計に挑戦し、より一層研究開発が活発化することを願っています。(香田)


[研究に関するお問い合わせ先]
京都大学 大学院情報学研究科 通信情報システムコース ディジタル通信分野
香田 優介(こうだ ゆうすけ) 原田 博司(はらだ ひろし)
TEL:075-753-5318
E-mail:contact [at] dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp

[報道・取材に関するお問い合わせ先]
京都大学 渉外・産官学連携部広報課国際広報室
〒606-8501 京都市左京区吉田本町36番地
TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094
E-mail:comms [at] mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

※メールアドレスは [at] を @ に変えてご利用ください


Copyright © 2014-2024 Harada Laboratory, Kyoto University. All Rights Reserved.