京都大学 原田研究室

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従来比100倍のエリアをカバーするIoTデータ収集・制御用小型無線機を開発
―広域系無線地域ネットワーク(Wi-RAN)システムに対応し無制限多段中継も可能に―

国立大学法人 京都大学 大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループ(以下 京都大学)と株式会社日立国際電気(以下、日立国際電気、代表執行役 執行役社長: 佐久間 嘉一郎)は、広域系無線地域ネットワーク(Wireless Regional Area Network: Wi-RAN)システム用無線機(以下、本装置)の小型化、基礎開発に成功しました。

広域系Wi-RANシステムは、伝送レートは数Mbpsの伝送を実現しつつ、通信距離は基地局から最大数kmという、現在の携帯電話の数倍の広い通信エリアを有しており、地域に局所的設置されたモニター、センサー情報を、クラウドに伝送する基幹回線として期待がされ、実導入が進んでいます。しかし、従来の無線機は、自身で中継機能を有していなかったため、数十km等の超広域かつ広帯域なデータ収集システムを構成することの障壁となっていました。また、装置の小型化、軽量化が望まれていました。

本装置は、従来の広域系Wi-RANシステム用無線機の伝送速度を保ちつつ、従来に比べ小型かつ軽量(容積:従来比1/5、重量:従来比1/4)であるとともに、中継段数無制限のスケーラブルな多段中継機能を1台の無線機の中に備えることにより、従来比10〜100倍である数十kmという飛躍的な通信距離拡大を実現するものです。

本装置開発の成功により、数10kmに存在する数百から数千のモニター、センサーから創出されたビッグデータを処理エンジンが搭載されたクラウドまで伝送する超ビッグデータ創出ネットワーク基盤の構築の研究開発が促進されます。今後は、本装置の実フィールドでの実証試験、商用化に向けた機器試験を行っていく予定です。

本研究成果のポイント

開発の経緯

京都大学及び日立国際電気は、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」(プログラムマネージャー 原田博司、以下,本プログラム)に参画しています。 本プログラムでは、現状のビッグデータ規模をはるかにしのぐ「超ビッグデータ」の創出・活用を可能とする超ビッグデータプラットフォーム構築を目指しています。この技術による新たな社会応用として、製造工場へのサイバー攻撃・故障の撲滅や健康データの解析によって症状の悪化や急変を先取りするヘルスケア・医療サービスを目標に研究開発を行っています。

超ビッグデータプラットフォーム実現のためにはセンサー、メーター、モニターなどの各種計測器に無線デバイスを備え、インターネットなどを介して創出されたビッグデータを効率的に処理エンジンに伝送する必要性があります。これは、IoT(Internet of Things:“モノ”のインターネット)とも呼ばれています。この無線によるIoTのネットワーク(以下、NW)実現のためには、高品質で長距離かつ安全で消費電力の低いネットワーク技術が必要です。

本プログラムでは、このネットワーク技術として、超高能率無線スマートライフラインNW(狭域系Wi-SUNシステム)による一次的なデータ収集と、基幹回線として超広域高能率無線中継ラインNW(広域系Wi-RANシステム)による二次的なデータ収集をシームレスに統合することを提案しています(図1)。

この広域系Wi-RANシステムについては、これまで、国立研究開発法人情報通信研究機構が国際標準化(ARIB STD-T103, IEEE 802.16n)に取り組み、京都大学において当該方式の大容量伝送するための高能率受信方式の開発を行ってきました。日立国際電気は情報通信研究機構からの技術移転を受け、無線機の開発に成功し、共同で実用化を行ってきました。しかし、従来の広域系Wi-RAN無線機は、中継機能を持つものの、中継段数に制限があり広域をカバーすることが難しいという問題がありました.また、設置の省スペース化に伴う、装置の小型化、軽量化が望まれていました。

研究の内容

日立国際電気は、広域系Wi-RANシステム用無線機を開発しました(外観図:図2、主要諸元:図3)。本装置は、ARIB  STD-T103 mode1の機能を有しつつ従来比1/5の容積、1/4の重量で実現しています(図4、図5)。京都大学は、無線通信プロトコルおよび無線信号処理ソフトウェアの開発を行いました。特に、飛躍的な通信距離拡大を実現することが可能な中継段数無制限で大規模化に対応可能な多段中継プロトコルを開発しました。日立国際電気は、このプロトコル、信号処理ソフトウェアを本装置に搭載しました。

その結果、本装置は、従来の広域系Wi-RANシステム用無線機に比べ、低消費電力かつ小型であるとともに、原理的に中継段数は無制限の多段中継機能を備えることにより、従来比10〜100倍である数十kmという飛躍的な通信距離拡大を実現することが可能になります。また、従来のWi-RAN装置では2台の無線機を用いてしか実現できなかった無線多段中継を1台の無線機で行うことにより、大幅に小型・軽量化を実現することに成功しました。

図1

図2

図3

図4

図5

今後の展開

本装置は、現在は基本的な無線通信機能のみ実装していますが、ソフトウェア無線技術を活用し、今後以下に示す研究開発成果を順次追加実装してまいります。

平成29年度中にプログラム全体の構成要素との接続試験を完了し、最終的に平成30年度末のプログラム完了までに、京都大学と日立国際電気の産学官連携体制のもと、医療関係や工場関係の数kmから数十km以内に存在する千から数万のモニターやセンサーから、1日数百万から数億生成されるビッグデータを、高信頼性、高レスポンス性(数10ms)を保ちつつ自らネットワーク構築し、収集することができる無線通信ネットワーク(従来比100倍のカバーエリア、収容能力)を可能とする「超ビッグデータ創出ドライバ」の実現をめざします。


[報道関係者のお問い合わせ先]
<研究に関すること>
原田 博司(ハラダ ヒロシ)
京都大学 情報学研究科 通信情報システム専攻 教授
〒606-8501 京都府京都市左京区吉田本町
Tel:075-753-5317
E-mail:hiroshi.harada[_a.t._]i.kyoto-u.ac.jp

堂坂 淳也(ドウサカ ジュンヤ)
株式会社日立国際電気 映像・通信事業部 通信装置設計本部 無線機器設計部
〒187-8511 東京都小平市御幸町32番地
Tel:042-322-3111
E-mail:public.hike[_a.t._]hitachi.co.jp
<報道担当>
京都大学 企画・情報部 広報課 国際広報室
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