京都大学 原田研究室

[ホーム] » [研究成果] » [報道発表]

新国際無線通信規格 IEEE 802.15.10 最終仕様に対応したメッシュ型多段中継無線機の開発に成功

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の原田 博司 プログラム・マネージャー(PM)の研究開発プログラムの一環として、京都大学 大学院情報学研究科 原田 博司 教授の研究グループは、数km四方内にある数百のセンサーからの情報を、IP(インターネットプロトコル)を利用しないメッシュ型の多段中継を利用することで、低消費電力で収集できる無線機を開発しました。この無線機は、IoT(Internet of Things:“モノ”のインターネット) 向け新国際無線通信規格IEEE 802.15.10注1)最終仕様に世界で初めて対応しています。

既存の多段中継可能な無線センサーネットワークのうち、国際標準化されたものの多くは、IPなどのネットワーク層でのルーティング(経路選択)をベースにしています。そのため、データパケット長が長く、工場や防災現場、農地などの電源供給が制限された環境にあるセンサーやモニターでは、電池寿命が短いことが課題でした。

今回、平成29年1月に制定されたデータリンク層ルーティング方式(L2R)の新国際無線規格IEEE 802.15.10を採用した無線機を、世界で初めて実現することにより、低消費電力でメッシュ型多段中継無線ネットワークを実現しました。さらに、特定の端末に中継が集中することを防ぐ目的で、IEEE 802.15.10標準を変更せずにすむ新しい送信機会均等アルゴリズムを開発し、この無線機に導入しました。このアルゴリズムを導入することにより、導入前と比べ消費電力はそのままで送信回数の偏りを最大50%程度低減することが可能になります。

この無線機の開発により、電源供給が制限された環境におけるIoTの開発が加速されると期待されます。なお、本研究のIEEE 802.15.10に対応した通信プロトコルを実現する通信ソフトウェアは、京都大学より技術移転が行われる予定です。

<ポイント>
  • 電源の供給が制限された環境にあるセンサーからの情報を、低消費電力で収集できる、メッシュ型の多段中継無線機を開発。
  • 新国際無線通信規格IEEE 802.15.10に対応したデータリンク層ルーティング方式(L2R)を、世界で初めて搭載。
  • 送信機会均等アルゴリズムを導入し、特定の端末に中継が集中しないように制御が可能。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

  • 内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
  • プログラム・マネージャー:原田 博司
  • 研究開発プログラム:「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」
  • 研究開発課題:「超ビッグデータ創出ドライバ用システム統合技術の研究開発」
    「超ビッグデータ創出ドライバ狭域系無線機の研究開発」
  • 研究開発責任者:原田 博司 (京都大学 大学院情報学研究科 教授)
  • 研究期間:平成28年度~平成30年度
  • 本研究開発課題では、数km四方内に存在する数万のメーターやセンサーからデータ収集や機器制御を行う、超ビッグデータを創出可能な低消費電力無線機の研究開発に取り組んでいます。


» 原田 博司 プログラム・マネージャーのコメント

社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォームを構築するためには各種センサー、メーター、モニターから創出されたビッグデータを効率的に処理エンジンに伝送する必要性があります。しかし、電源供給が制限された環境におけるセンサーなどでは、比較的短いデータ長で各端末からの送信回数を一定化することができる多段中継通信国際標準規格が必要になります。今回開発した無線機はこのすべてを満たす国際無線通信規格IEEE 802.15.10を搭載し、さらに特定の端末だけ電力消費が大きくならない送信機会均等アルゴリズムが追加搭載されています。この無線機開発の成功により、電源供給が制限された環境におけるIoT(“モノ”のインターネット)の開発が加速されると期待されます。

研究の背景と経緯

ImPACT 原田 博司 プログラム・マネージャーの研究開発プログラムでは、現状のビッグデータ規模をはるかに凌ぐ「超ビッグデータ」の創出・活用を可能とする超ビッグデータプラットフォームを構築し、この技術による新たな社会応用として、製造工場へのサイバー攻撃、故障の撲滅を目指すファクトリセキュリティと予見先取ヘルスケア・医療サービスを目指すヘルスセキュリティに関する研究開発を行っています。

この超ビッグデータプラットフォームの実現のためには各種センサー、メーター、モニターなどの計測器に無線デバイスを備え、創出されたビッグデータをインターネットなどを介して効率的に処理エンジンに伝送する必要性があります。これは、IoTとも呼ばれています。

この無線デバイスによるネットワーク実現のためには、高品質で長距離かつ安全で低消費電力なネットワーク技術が必要となります。こうした中、京都大学 原田 博司 教授は低消費電力でIoTを実現する無線伝送方式を開発し、米国の無線標準規格IEEE 802.15.4g注2)として国際標準化をしました。そして、IEEE 802.15.4g規格の低消費電力無線伝送技術とIPv6による多段中継技術を利用した相互運用可能な新国際無線通信規格Wi-SUN FAN注3)に準拠した無線機の開発に成功し、平成27年11月14日に報道発表しました。

このWi-SUN FANは、米国IEEE 802.15.4/4g/4eを無線伝送部に採用し、米国IETF 6LowPAN注4)を介してIPv6パケットの伝送を可能とし、米国IEEE RPL(IPv6 Routing Protocol for Low power and Lossy network)による多段中継技術、米国IEEE 802.1xの認証方式を利用した、通常の無線LANと同様の手軽さでIoTを実現できるシステムです(図1)。しかし、IPなどのネットワーク層でのルーティングをベースにしたものであるため、データパケット長が長くなり、工場や防災現場、農地など、電源供給が制限された環境におけるセンサーやモニターでは電池寿命が短いことが課題となっていました。そこで、Wi-SUN FANほどの手軽さはないものの、データパケット長が比較的短いデータリンク層での低消費電力なルーティング、いわゆるL2Rの国際無線通信規格策定が急務とされていました。

米国IEEE 802委員会においても、このL2Rの標準化を行うIEEE 802.15.10委員会が立ち上がり、京都大学は情報通信研究機構と共同で技術提案を行い、その平成29年1月に標準化が終了しました。しかし、その最終承認された仕様に対応した無線機は開発されていませんでした。

研究の内容

今回の研究内容は大きく2つに分けることができます。まず、IEEE 802.15.10最終標準仕様に対応した基礎無線機(図2)を世界で初めて開発し、同無線機を複数台用いて、多段中継を利用したIP通信を行う基礎実験に成功しました(図3)。

この無線機は、以下の機能を持ちます。Wi-SUN FANとの比較を図1に示します。

IEEE 802.15.10は低消費電力なメッシュ型多段中継の実現はできますが、広域に数百のセンサー端末がある場合(図4)、特定の通信品質の良い端末が中継点となってしまい、各端末の送信回数に偏りが出てくることが明らかになりました(図5上)。そこで、IEEE 802.15.10標準のインターフェースを保ちつつ、累積送信回数を加味したルーティング法を京都大学で新たに開発しました。このルーティング法を用いることにより、用いない場合と比べ送信回数の偏りを最大50%程度低減することが計算機シミュレーションで確認できました(図5下)。この通信プロトコルも今回開発した無線機に搭載しました。

図1

図2

図3

図4

図5

今後の展開

この無線機の開発により、工場や防災現場、農地など、電源供給が制限された環境におけるIoTの開発が加速されると期待されます。今後は、このような環境での屋外伝送の特性評価を行います。また、Wi-SUN アライアンス注5)内の電源供給が制限された環境におけるIoT用通信仕様の策定を行うRLMM(Resource Limited Monitoring and Management)ワーキンググループにおいて、製造企業間の相互接続性認証のための仕様を策定していく予定です。

なお、本研究のIEEE 802.15.10に対応した通信プロトコルを実現する通信ソフトウェアは、京都大学より技術移転が行われる予定です。

用語解説


関連リンク

[ 京都大学 » 研究・産官学連携 » 研究成果 » 本報道発表 ]


[お問い合わせ先]
<研究に関すること>
原田 博司(ハラダ ヒロシ)
京都大学 情報学研究科 通信情報システム専攻 教授
〒606-8501 京都府京都市左京区吉田本町
Tel:075-753-5317
E-mail:hiroshi.harada[_a.t._]i.kyoto-u.ac.jp
<ImPACT事業に関すること>
内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
Tel:03-6257-1339
<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>
科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-6380-9012 Fax:03-6380-8263
E-mail:impact[_a.t._]jst.go.jp
<報道担当>
京都大学 企画・情報部 広報課 国際広報室
〒606-8501 京都市左京区吉田本町36番地
Tel:075-753-5727  Fax:075-753-2094
E-mail:comms[_a.t._]mail2.adm.kyoto-u.ac.jp

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkoho[_a.t._]jst.go.jp

※ [_a.t._]を@に変更してください。


Copyright © 2014-2017 Harada Laboratory, Kyoto University. All Rights Reserved. Web Designed by Keiichi Mizutani.