国立大学法人 京都大学 大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループ(以下 京都大学)は、次世代電力スマートメータ等において今後利活用が期待されている国際無線通信規格Wi-SUN FAN1.1向けの評価基板の開発に成功しました。この評価基板は、従来のWi-SUN FAN1.0用評価基板で用いられてきたFSK方式に加えて、最大2.4Mbpsの伝送速度が実現可能なOFDM方式が搭載されており、また、現時点で標準化されているWi-SUN FAN1.1の通信ソフトウェアが搭載されています。また、開発したWi-SUN FAN1.1評価基板の伝送特性評価を行うために、仮想空間で無線通信を模擬・評価するワイヤレスエミュレータ上にて動作させたWi-SUN FAN1.1対応仮想無線機との相互接続、評価環境を開発し、相互運用に成功しました。今回の成果により、現実空間にある無線機をあたかも仮想空間上で構築された地理空間上で設置された無線機として扱い、屋外実験等を行わずに評価することが可能となり、研究開発の加速化が期待できます。
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センサー、メーター、モニター等に通信機能を搭載し、都市環境における様々な課題を解決するスマートシティやスマートメータリングと呼ばれる大規模IoTシステムが現在検討されており、このシステムの実現のためには、屋外での高品質でかつ建物等による遮蔽に対する耐障害性に優れた堅牢な無線通信ネットワークが必要となります。Wi-SUN FAN (※1)は、これらの要求を満たすIoT用国際無線通信規格「Wi-SUN」の規格の一つであり、既に電気・ガス・水道のメータリングのほか、スマートシティ、スマートグリッド、高度道路交通システム等のセンサー、モニター等を用いた各種インフラ、アプリケーションにおいて、ベンダー間で相互接続可能な通信ネットワーク技術として導入が検討されています。京都大学では、Wi-SUN FANの通信技術の実用化に向けて、接続方式や技術の研究開発、実無線機の開発、大規模ネットワーク確立に向けた実証試験を行ってきました。
無線機の試作や研究開発段階において、先行してさまざまな伝送特性試験を進めることができるように、主に下記の3点について研究開発しました。
(1) Wi-SUN FAN1.1向けの評価基板(図1、図2、表1参照)
(2) (1)の基板および仮想環境で動作するWi-SUN FAN1.1通信ソフトウェア
(3) (1)の基板と連携動作可能なワイヤレスエミュレータ(仮想空間で無線通信を模擬・評価するシステム)上にて動作させたWi-SUN FAN1.1対応仮想無線機との相互接続、評価環境
上記(1)に関して、開発された評価基板では、従来のWi-SUN FAN1.0用評価基板で用いられてきた数100kbpsの伝送速度が実現可能なFSK方式に加えて、最大2.4Mbpsの伝送速度が実現可能なOFDM方式が搭載され、利用用途、環境に応じて切り替えて利用可能です。また(2)に関しては最新の標準仕様に準拠しています。また(3)に関しては、2024年1月24日に報道発表を行った仮想空間上でWi-SUN FAN1.1の無線機の機能を最大10000台模擬・評価するワイヤレスエミュレータを利用し、この評価基板と連携動作できるように仮想物理変換部を開発し、この変換部に接続された物理的な評価基板が仮想空間上であたかも1台の無線機として動作するよう開発されています(図3参照)。この相互接続、評価環境を用いてWi-SUN FAN1.1評価用ソフトウェアを搭載した評価基板2台と、仮想空間上で動作するWi-SUN FAN1.1仮想無線機18台との相互接続試験環境を構築して、合計20台の無線機を仮想空間上の地理空間に設置し、Wi-SUN FAN1.1向けのマルチホップネットワークの経路構築とデータ通信を実現しました(図4参照)。
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今回の検証にて、Wi-SUN FAN1.1評価基板とWi-SUN FAN 1.1通信ソフトウェアを用いた基礎検証が可能となり、かつ、現実空間にある無線機と仮想無線機との相互接続、評価が可能であることが実証されました。これにより、次世代スマートメータやスマートシティ向けとして期待されているWi-SUN FAN1.1無線機開発の加速化が期待できます。また、仮想無線機には、実無線機で動作しているプロトコルスタックをそのまま搭載しているため、仮想環境上にて実運用に向けて検証して、実無線機へとフィードバックすることが可能です。
今回の成果で確立したWi-SUN FAN1.1向け評価基板や評価用ソフトウェアを用いて、最新規格の取り込みや新方式の提案を進め、より最適なネットワークの構築、維持、安定した通信の実現に向けた研究開発を進めてまいります。
本研究の一部は総務省「仮想空間における電波模擬システム技術の高度化に向けた研究開発」(JPJ000254)における受託研究の一環として実施されたものです。
» 1. Wi-SUN FAN(Field Area Network)
Wi-SUNアライアンスが制定するスマートメータリング、配電自動化を実現するスマートグリッドおよび、インフラ管理、高度道路交通システム、スマート照明に代表されるスマートシティを無線で実現するためのセンサー、メーターに搭載するIPv6でマルチホップ可能な通信仕様です。2016年5月16日にバージョン1がWi-SUN FANワーキンググループで制定され、現在は高速通信、低消費電力化などに対応したバージョン1.1の規格化が進められています。物理層にIEEE 802.15.4g、データリンク層に IEEE 802.15.4/4e、アダプテーション層にIETF 6LoWPANそしてネットワーク層部にIPv6、ICMPv6、トランスポート層にUDP、そして認証方式としてIEEE 802.1xを採用しています。また製造ベンダー間の相互接続性を担保するための試験仕様なども提供されています。京都大学は、株式会社日新システムズとローム株式会社と共同で、このWi-SUN FAN 搭載のWi-SUNアライアンス認証済み無線機の開発を2019年1月に世界で初めて行いました。また、このWi-SUN FAN 1.0はIEEE 2857により標準化済です。
» 京都大学 大学院情報学研究科 原田博司研究室について
京都大学 大学院情報学研究科 原田博司研究室は、京都大学 大学院情報学研究科通信情報システム専攻に所属し、ディジタル通信分野に関する研究開発を行っています。特に原田博司教授は、情報通信研究機構に在籍中、Wi-SUNシステムのベースとなる国際標準規格IEEE 802.15.4gの副議長として標準化に貢献し、2012年Wi-SUNアライアンスを共同創業者(Founder member)として設立し、Wi-SUNアライアンス理事会議長(Chair of the Board)として長年活動し、またWi-SUNアライアンスHAN WG議長として、電力会社向け宅内スマートメーターシステム用Wi-SUNシステムの技術仕様策定、普及活動を行ってきました。また、Wi-SUN FAN 1.0の国際標準化であるIEEE 2857も副議長として貢献しています。原田博司研究室では、Wi-SUNシステム全般の研究開発を行っており、主に通信方式、電波伝搬・伝送、システム最適化、応用システム等の研究開発を行っています。また、ワイヤレスエミュレータの研究開発においては総務省受託研究の共同受託機関です。
※本資料に掲載する機関名、製品名は各社の登録商標または商標です。
※修正箇所を赤太字で示しています(2024年5月30日)
[研究に関するお問い合わせ先]
京都大学 大学院情報学研究科 通信情報システムコース ディジタル通信分野 原田 博司(はらだ ひろし)(Tel: 075-753-5317) E-mail:contact [at] dco.cce.i.kyoto-u.ac.jp [報道関係者のお問い合わせ先] 京都大学 渉外・産官学連携部広報課国際広報室 〒606-8501 京都市左京区吉田本町36番地 TEL:075-753-5729 FAX:075-753-2094 E-mail:comms [at] mail2.adm.kyoto-u.ac.jp ※メールアドレスは [at] を @ に変えてご利用ください |