~関西における無線研究センターオブエクセレンスの構築と成果~
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「 ATR 」)と国立大学法人京都大学(以下「 京都大学 」)は、相互に連携して電波COE(Center Of Excellence)研究開発プログラムを2019年より推進してきました。このプログラムは、将来のSociety5.0時代の到来を見据え、電波利活用強靭化に資する複数(5つ)の研究開発を若い研究者/技術者を研究代表者に据えた産学連携プロジェクトとして推進し、短期間での研究成果の創出と人材育成を目指すというものでした。プログラムでは、研究成果創出と人材育成を両立させるために、最新研究環境の構築と提供やメンターによる指導も合わせて実施しました。4年間の取組みを経て、目に見える研究成果が得られましたのでこの度公表いたします。 取組んできた技術課題は5つあります。以下にそれぞれの技術課題、体制、研究開発成果についてご紹介します。 |
【技術課題1】
技術課題名:Society 5.0の実現に向けた大規模高密度マルチホップ国際標準無線通信システムの研究開発
研究代表者:日新システムズ 柏木 良夫
研究体制:日新システムズ、京都大学
研究概要:本研究開発では、マルチホップに対応した無線規格の国際標準化と研究開発を実施しました。
都市部などの機器設置後に周辺環境が変化する環境では、自律的に経路を構築しつつ大規模高密度な環境でも安定した通信が可能になる無線規格が必要とされています。そのようなマルチホップ無線規格の開発、国際標準化を行い、この無線規格を用いた無線機を開発、その無線機を数百台規模で集積させ、大規模高密度な環境で通信試験を行うことができる試験機を開発しました。この無線機1,000台を用いて、マルチホップ接続にて伝送成功率99.9%以上でデータ収集できることを実証しました。また、低消費電力デバイス用通信方式の仕様提案を行い、その通信方式を搭載した低消費電力対応無線機を電源駆動デバイスの配下に接続してデータ伝送できることを実証しました。さらに、この通信規格で収集したデータを活用できるように、社会実装用センシングデータ取得基盤を開発しました。
研究開発したWi-SUN FAN無線IoT機器400台を用いて社会実装を前提にした大規模実証試験を行いました。
今後はこれらの成果を用いて医療や工場、防災・減災などへの社会実装を進めていきます。
(詳細は付属資料の技術課題1をご覧ください。)
【技術課題2】
技術課題名:冗長検査情報を用いる通信品質要因解析に基づく無線アクセス技術の研究開発
研究代表者:京都大学大学院情報学研究科 准教授 山本高至
研究体制:京都大学、福岡大学、ATR
研究概要:駅やホテルなどで、無線LANに接続できているのにインターネットに接続できないことがあります。従来では、このような障害の原因を特定するために必要な情報の記録・共有を行っておらず、問題の解決が困難でした。そこで、本技術課題では各無線機器の送受信タイミングや伝搬路の状態などの機器内部情報を記録して無線機器間で共有してAI・機械学習により通信障害の原因を切り分け、原因に応じて制御を行うことにより高速・高密度な通信を実現する技術を開発いたしました。
研究成果:無線LANの障害原因の切り分けを実現するとともに、従来技術と比べ、スループットを50%以上向上させる無線機制御アーキテクチャ、ならびに強化学習により無線機器間での衝突の発生確率を半分以下に低減する技術の開発に成功いたしました。
(詳細は付属資料の技術課題2をご覧ください。)
【技術課題3】
技術課題名:広域系WRANを用いた高能率周波数共用システムの研究開発
研究代表者:京都大学大学院情報学研究科 准教授 水谷圭一
研究体制:京都大学、日立国際電気
研究概要:VHF帯を用いる広域系WRAN(Wireless Regional Area Network)の伝搬・伝送特性を利用して、Sub6GHz帯の干渉を予測・回避し、高効率なSub6GHz帯周波数共用を実現する技術の確立を目指します。WRANの代表例であるARIB STD-T103/T119システムは、国内のVHF帯で運用される公共業務用無線システムです。見通し外でも長距離大容量通信が実現できるため、災害現場や緊急現場等における無線通信システムとして配備が進められています。しかし普及が進むと今後帯域の不足が懸念されます。そこでVHF帯の電波を使いつつ、既に他システム(特に自営通信)に割り当てられたSub6GHz帯を周波数共用によって利用することを考えます。この際、緊急時に限り公共業務無線システムを優先的に利用するためには、優先的に周波数を利用させる公共業務端末(優先端末)の存在場所を把握し、その上で電波が干渉を及ぼすエリア(電波保護領域)を推定し、干渉を与える場合には出力を低下させる措置を取る必要があります。緊急時にGPSが利用できない場合も想定し、本研究ではまず、優先端末が具備するARIB STD-T103/T119が送出するVHF帯信号を、高精度に検出可能な電波センサーを開発して受信し、当該受信信号から算出した瞬時チャネルインパルス応答(CIR)と機械学習を用いて、当該電波が送出された場所を推定する技術を開発し、京都市左京区のフィールドにおける実証試験において、正解率95%以上の推定精度を達成できることを示しました。さらに、電波保護を確実に実施しつつ、自由空間伝搬モデルに比べて99%以上不必要な干渉保護領域を削減可能なモデルを開発し、実際の伝搬実験によりその効果を実証しました。今後はさらに端末場所推定精度の向上、実用化に向けた手法簡略化等の取り組みを実施してまいります。
(詳細は付属資料の技術課題3をご覧ください。)
【技術課題4】
技術課題名:電波を用いた新しい近距離センシング技術に関する研究開発
研究代表者:ATR波動工学研究所 研究員 栗原拓哉
研究体制:ATR、同志社大学
研究概要:本研究開発では、近接センサーや紙厚センサーとして用いることができる新しいタイプの非接触センサーの開発に成功しました。本技術は、電波を用いてアンテナインピーダンスを測定することでセンシングを行います。従来の光学センサーは太陽光の、レーザーセンサーは検査対象の表面の粗さの影響を強く受けましたが、開発した電波を用いる方式は、それらの影響を受けにくいという特徴があります。また、検出対象に直接触れずにセンシングを行うため、センサー自身や検出対象の損傷・摩耗による劣化がなく、衛生的であり、移動する物体のセンシングも容易です。この提案方式を用いて、物体の有無を非接触で検知する近接センサーを開発し、アンテナから数cm程度の距離にある人体ファントムの有無を検出することを実証しました。また、非接触で紙厚を検出する紙厚センサーも開発し、100~200μm程度の厚みの紙を±25μm程度の精度で検出できることも確認しました。今後は、提案センサーを製造業における生産技術に展開することを目指して、更なる開発を進めていく予定です。
(詳細は付属資料の技術課題4をご覧ください。)
【技術課題5】
技術課題名:三次元全方位走査フェイズド・アレイ・レーダーの研究開発
研究代表者:WaveArrays株式会社 代表取締役 賀谷信幸
研究体制:WaveArrays、神戸大学
研究概要:本研究開発目標は、高速測定可能なレーダーを目標として三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナを開発し、その性能を実証することです。更に種々の有用な応用に適したアンテナに発展させて、社会実装を目指します。三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナは、前例のない周囲全方位に電子的にビーム走査可能なフェイズド・アレイ・アンテナで、汎用な使用目的から宇宙デブリの観測まで多くの有用な応用に適応できるアンテナです。目標達成のために、三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナのハードウェアの高性能化と高機能化、最先端技術によるデータ処理システムと高速アルゴリズムの開発を実施しました。三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナとは、ポール内にアンテナ素子を一次元に並べ、複数のポールアンテナを二次元的に配置することにより、三次元の立体構造に拡張し、全方位にメインビームを走査可能にしたフェイズド・アレイ・アンテナです。パラボラアンテナで使用している機械式駆動装置を用いることなく、電子的かつ超高速に天空全方位を走査可能なアンテナです。デジタル・ビーム・ホーミングの手法を用いることにより、受信データを取得した後に所要の通信対象を選別することが可能となり、アンテナ利得を最大にし、多くの通信を同時に行うことが可能となる大きな長所を持つアンテナです。応用として、気象や障害物測定などのための超高速全方位走査レーダー、複数衛星との同時通信用アンテナ、自動追尾ポータブル・アンテナなど、従来のパラボラアンテナに代わる次世代のビーム走査アンテナです。本研究では、三次元全方位走査フェイズド・アレイ・アンテナの技術を確立するために、宇宙ステーションから放出された小型衛星の信号を受信し、その性能を実証しました。また、切れ目のない全方位性を高めたアンテナ素子を実現するために専用MMICを設計試作し、実用的な性能を得ることに成功しました。
(詳細は付属資料の技術課題5をご覧ください。)
【6/6電波COEシンポジウムの開催】
なお、電波COE研究開発プログラムの推進、5つの研究開発成果の詳細を報告、議論するシンポジウムを以下の通り本年6月に開催する予定です。合わせてご案内いたします。
イベント名:第4回 電波利活用強靭化に向けた電波COEシンポジウム
日時:2023年6月6日(火曜日)13:00-18:00
場所:京都テルサ(ハイブリッド開催)大会議室(B, C)
https://www.kyoto-terrsa.or.jp/parking/
参加費:無料
申込・プログラム等詳細:https://w-coe.jp/4th-symposium/
以上です。本研究開発プログラムは、総務省SCOPE(受付番号JP196000002)の委託を受けて実施しました。
» 【株式会社国際電気通信基礎技術研究所について】
所在地:京都府相楽郡精華町光台二丁目2番地2(けいはんな学研都市)
代表者:代表取締役社長 浅見 徹
事業内容:脳情報科学、深層インタラクション科学、無線通信などの情報通信分野と生命科学に関する研究開発及び事業化。
URL:https://www.atr.jp/
» 【国立大学法人京都大学について】
所在地:京都府京都市左京区吉田本町
代表者:総長 湊 長博
事業内容: 教育研究活動に関する事業
URL:https://www.kyoto-u.ac.jp/
» 【学校法人福岡大学について】
所在地:福岡県福岡市城南区七隈八丁目19番地1
代表者:学長 朔 啓二郎
事業内容: 教育研究活動に関する事業
URL:https://www.fukuoka-u.ac.jp
» 【学校法人同志社 同志社大学について】
所在地:京都府京都市上京区今出川通烏丸東入玄武町601番地
代表者:学長 植木 朝子
事業内容:教育研究活動に関する事業
URL:https://www.doshisha.ac.jp/
» 【国立大学法人神戸大学について】
所在地:兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1
代表者:学長 藤澤 正人
事業内容:教育研究活動に関する事業
URL:https://www.kobe-u.ac.jp/
» 【株式会社日新システムズについて】
所在地:京都府京都市下京区堀川通綾小路下る綾堀川町293-1 堀川通四条ビル
代表者:代表取締役社長 竹内 嘉一
事業内容:組込みシステム開発
URL:https://www.co-nss.co.jp
» 【株式会社日立国際電気について】
所在地:東京都港区西新橋2-15-12(日立愛宕別館6F)
代表者:代表取締役 社長執行役員 佐久間 嘉一郎
事業内容:映像・通信・情報ソリューション及び研究開発
URL:https://www.hitachi-kokusai.co.jp/
» 【WaveArrays株式会社について】
所在地:兵庫県尼崎市武庫之荘五丁目44番9号
代表者:代表取締役 賀谷 信幸
事業内容:三次元走査立体フェイズド・アレイ・アンテナとマイクロ波無線送電に関する研究開発及び事業化。
URL:https://wavearrays.com/
技術課題名:Society 5.0の実現に向けた大規模高密度マルチホップ国際標準無線通信システムの研究開発
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技術課題名:冗長検査情報を用いる通信品質要因解析に基づく無線アクセス技術の研究開発
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技術課題名:広域系WRANを用いた高能率周波数共用システムの研究開発
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技術課題名:電波を用いた新しい近距離センシング技術に関する研究開発
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技術課題名:三次元全方位走査フェイズド・アレイ・レーダーの研究開発 |
[お問い合わせ先]
株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 経営統括部 企画・広報チーム 〒619-0288 京都府相楽郡精華町光台二丁目2番地2 Tel:0774-95-1176 Fax:0774-95-1178 E-mail:pr@atr.jp |