<ポイント>
従来の広域系Wi-RANシステムでは、中継接続時に1拠点あたり複数の無線機を必要とするなど、設置場所・消費電力等の観点から、超広域かつ広帯域なデータ収集システムを容易に構成する際の障壁となっていました。また、従来の中継伝送では中継局は情報の中継、転送しか行わず、中継局自身が情報収集を行い、情報追加して、転送を行うことができませんでした。さらに数kmを超える中継を無線で行う場合、双方が見通せる環境が必須であり、間に山等が存在する見通し外環境での数kmを超える中継の実現は困難でした。 本開発では、従来2台の無線機で実現していた無線多段中継を1台の無線機で実現でき、かつ遠隔地からの情報中継だけでなく、自身が情報収集を行い、情報追加して、転送を行うことができるマルチホップ中継方式のファームウェア(物理層、MAC層)を開発し、従来のWi-RAN無線機に実装しました。この無線機は利用シーンに応じて、基地局、中継局、端末局になることができます。さらに中継接続した各無線機の通信の状態及びGPS情報位置情報を基地局で収集し、基地局において視覚的に各無線機の状態を表示する回線監視サーバの開発を行いました。 そして、この無線機を用い、京都市役所様のご協力のもと、遠隔地および中継地点における映像情報の収集実験を京都市内で行いました。無線機同士が見通せない環境において、最大8.4kmの距離を中継接続で接続し(単区間中継距離最大6.4km)、遠隔地の車上端末局および中継局からの二拠点同時リアルタイム映像伝送に成功しました。 |
社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォームを構築するためには、ローカルな環境において各種センサー、メーター、モニタに代表される数千のIoTデバイスから創出された超ビッグデータを効率的に処理エンジンに伝送する必要性があります。今回開発した無線多段中継無線機は、数千のIoTデバイスからの超ビッグデータを数kmの範囲内で収集し、かつそのデータを無線見通し外環境においても多段中継(1段あたりの通信距離を最大5km以上)により数十km先の処理エンジンに伝送可能とするものです。また、この無線機は情報の転送のみならず自身が収集したビッグデータも追加して伝送する機能があります。今回この規格に対応した無線機の開発に成功したことにより、簡単に超広域の超ビッグデータ収集が可能となります。
ImPACT 原田 博司 プログラム・マネージャーの研究開発プログラムでは、現状のビッグデータ規模を遥かに凌ぐ「超ビッグデータ」の創出・活用を可能とする超ビッグデータプラットフォーム(図1)を構築し、この技術による新たな社会応用として、製造工場へのサイバー攻撃、故障の撲滅を目指すファクトリセキュリティと予見先取ヘルスケア・医療サービスを目指すヘルスセキュリティに関する研究開発を行っています。
この超ビッグデータプラットフォームは、センサー、メーター、モニタ等により創出されたビッグデータを超高能率無線スマートライフラインNW(狭域系Wi-SUN注2)システム)により、局所的に収集する一次的なデータ収集と、この各収集したデータを超広域高能率無線中継ラインNW(広域系Wi-RANシステム)により広域に収集する二次的なデータ収集をシームレスに統合することにより構成されます。
超ビッグデータプラットフォームの構成要素の一つである広域系Wi-RANシステムについては、これまで、国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、「情報通信研究機構」)が国際標準化に取り組み、京都大学において当該方式の大容量伝送するための高能率受信方式の開発を行ってきました。日立国際電気は情報通信研究機構からの技術移転を受け、無線機の開発に成功し、共同で実用化を行ってきました。
しかし、従来開発した無線機では、中継接続時に1拠点あたり複数の無線機を必要とするなど、設置場所・消費電力等の観点から、超広域かつ広帯域なデータ収集システムを容易に構成する際の障壁となっていました。また、従来の中継伝送では中継局は情報の中継、転送しか行わず、中継局自身が情報収集を行い、情報追加して、転送を行うことができませんでした。さらに数kmを超える中継を無線で行う場合、双方が見通せる環境が必須であり、間に山等が存在する見通し外環境での数kmを超える中継の実現は困難でした。
本開発では、従来、2台の無線機で実現していた無線多段中継を1台の無線機で実現でき、かつ遠隔地からの情報中継だけでなく、自身が情報収集を行い、情報追加して、転送を行うことができるマルチホップ中継方式のファームウェア(物理層、MAC層)を開発しました。さらに中継接続した各無線機の通信の状態及びGPS情報位置情報を基地局で収集し、基地局において視覚的に各無線機の状態(位置情報、RSSI、CINR、スループット)を表示する回線監視サーバの開発を行いました。
そして、上述のファームウェアを従来のWi-RAN無線機に実装しました(図2)。この無線機は利用シーンに応じて、端末局、中継局、基地局になることができます。この無線機を用い、京都市役所様の協力のもと、実際のフィールド(都市環境)において遠隔地および中継地点における映像情報の収集実験を京都市内で行いました。
この実験では、京都市役所に基地局(BS)、京都大学に中継局(RS1)を固定設置、端末局(RS2)を車上に設置した映像伝送試験(図3)を行い、見通し外環境において最大合計中継距離8.4km(単区間中継距離最大6.4km)において、端末局(RS2)および中継局(RS1)の二拠点で収集した映像情報をリアルタイムに基地局(BS)に向け伝送し、基地局で表示させることに成功しました(図4)。このとき各無線機の位置情報、RSSI、CINR、スループット等の情報は、開発した回線監視サーバにより確認することができます(図5)。
本試験では1ホップのみの基本中継動作の確認のみを行いましたが、今後は以下に示す機能を順次実証、必要に応じて追加実装します。
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数km~数10kmの範囲をカバーする地域無線ネットワーク(Regional Area Network)の呼称。携帯電話に比較して低い周波数帯(VHF帯、UHF帯)を用いて数10Mbps程度の伝送速度ながら数10kmの範囲内の通信を行う。主に地域系のブロードバンド回線およびIoT用の広域情報収集回線としての利用が期待されている。日本では ARIB STD-T103、米国ではIEEE 802.22、IEEE 802.16n等で標準化が行われている。
国際無線通信規格IEEE 802.15.4g規格をベースにエネルギーマネージメント、防災、工場等の各種アプリケーションを実現するために他のオープンな国際標準規格と融合させ、製造メーカー間で相互接続可能な国際無線通信規格。最大1km弱程度の距離で相互通信を行うことが可能。
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